PVL・脳室周囲白質軟化症の鍼灸治療と推拿療法の様子
◎はじめに
こんにちは。かささぎ針灸院・大嶋崇史です
皆様、PVL・脳室周囲白質軟化症という病名をご存じでしょうか?
赤ちゃんが産まれてくる時に早産や難産等の原因によって酸欠になり赤ちゃんの大切な脳の細胞が部分的に壊れて死んでしまう疾患です
赤ちゃんが成長するにつれ運動機能に障害が出たり発育や発達の遅れが出る事があります
残念ながら西洋医学ではそれを見つける事ができても根本的な治療方法は未だ確立されておりません
昨年秋にご縁がありまして、京都の先生からご紹介いただいて、そこから今日までSちゃんという女の子を継続的に施術させていただいてます
今回その事柄をブログに起こそうと思ったのは患者であるSちゃんのご両親のあるご厚意からでした
施術の様子を撮影して写真をくださったのですが、その写真を院の宣伝や同じく悩み苦しんでいるPVLの子を持つ親御さん方に対して、鍼灸治療や推拿治療という選択肢が有る、我々はそれで大変救われている事をもっと知ってほしいとの事だったからです。
私自身、院の宣伝という下心が無い事はないのですが、世の中にPVLという疾患が有って悩んでいるお子さんやご両親がいる事、また、中医学や伝統療法がそれの助けになる可能性が有る事をお伝えできればいいなと思います
そして、他の鍼灸師や療術者がPVLの患者さんが来た場合の何か参考になればと思いますので、間あいだに専門的な用語や解説が入ります。一般の方は興味が無ければ読み飛ばしてください。◎治療の様子からで写真を見て、だいたいどんなふうに施術してるかを確認していただけたらと思います。
◎PVLに対してのアプローチ、中医学的な考え方等
アプローチについて、最初に肝要な部分を言ってしまいますと
西洋医学っぽくポイントを言えば
ひとつ、脳の発育や血流を促進する
ひとつ、胃腸機能を正常に保つ
このふたつです
それらを叶える為に鍼灸治療や小児推拿療法を使います
脳の血流を促進するには主に頭部のツボを使って鍼で刺激しますが他にも大切な事が有ります。それは後述
脳の血流を促進するのが大切なのは何となく分かるかと思います、なぜ胃腸のコンディションが大事なのか。これも後述します
実は、PVLに対して鍼灸も東洋医学も中医学も絶対コレみたいに確立された治療法は有りません。昔はPVL自体認識されてませんでしたからね
多くの難治性の疾患に対する鍼灸治療や東洋医学的なアプローチに言える事ですが、病名そのものに振り回されずに先ずはその疾患に多い体のコンディションの欠落や弱点を大づかみに把握します(これを弁証といいます)
その体質の弱点をつかんだ後は、それらを修正、底上げしていく事になります(これを論治といいます)
そして、患者自身の回復力や成長機能を促進します
ちなみに、私は上海の病院にいた頃、小児の脳性麻痺を専門に診る鍼灸外来で学んだ期間が有り、それに準じて体質診断したり方法を決めています(弁証論治)
小児の発育や発達障害、脳性麻痺はすべからく先述したふたつの要因、もしくはどちらかに問題を抱えている事が多く、実際にそれらに問題が有ると予後が良くありません
それらふたつは中医学では五臓六腑の『腎』と『脾』と言います
『腎』(脳)=先天之精
+
『脾』(胃腸)=後天之精
中医学や伝統医学で『腎』というのは一般的に知られている腎臓そのものの機能も含みますが、他にも大人の生殖機能、子供の成長や発達を促す力、脳、耳、腰、しいては生命力そのものをさします。また、腎に蓄えられるエネルギーや物質を先天之精と表して、それは両親から引き継いで体の強さや性質、成長に関わります。こちらは両親から与えられ産まれながらにして持っているので先天と言います
『脾』というのは実際の脾臓をささずに胃腸機能全般を指します。食べ、消化して、排泄して、といった人の消化機能全体です。先の先天の精に対して、産まれ出た後から『脾』が乳にはじまり食べ物を消化して得たエネルギーや栄養を後天之精と表します
中医学では脳は『腎』に含みますから、腎に関するツボを刺激したり時に湯薬や食療で腎を補強します。それによって脳の血流や発育を間接的に促します。
では、なぜ『脾』も大事か。東洋医学中医学で考えなくても、脳は沢山のエネルギー(ブドウ糖や酸素)を消費する器官であり、同時に多量のタンパク質を必要とします。産まれてきて乳や食料自体が不足するのはまた別の問題として、それらを口にしてしっかり消化し栄養を摂りこめなければ脳の発育や修復に必要な物質が不足する、血液そのものの成分やポテンシャルが下がる事は容易に想像できるはずです
そこで『脾』に関するツボを刺激する事で胃腸を動かして消化機能の強化を計ります
先にも書いたように、産まれてきてからこのふたつの『腎』と『脾』に問題のある小児は疾患の回復や予後が悪い傾向にあります
小児の治療では先天と後天の両方支えてあげる事がとても重要なのです
ですので、小児の脳に関する疾患では頭部への鍼治療やアプローチがまず大事ですが、それでは不十分だと考えて『腎』や『脾』も補強してあげると良い結果が出ます。
Sちゃんのご両親ともが子供の頃から胃腸があまり丈夫でないとの事でしたので、体質を引き継いでいる事もあり、来院当初はSちゃんも消化機能が悪い兆候が見られました。舌の苔が厚く白かったのです
また、排便も自力では出にくく綿棒で刺激すると出るとの事でした
◎治療の様子と内容
その1:頭鍼
写真は有りませんが、最初に「百会」「四神聡」という頭のてっぺんに在るツボに軽く鍼を刺して刺激します
刺したまま置いておきます
これは直接頭部、強いては脳の血流を促進する為です
その2:小児推拿 補腎経、補脾経、推板門
小児推拿が大人と違っておもしろいところは、大人には無いツボや治療点を使えるところです
手の指先すべてに五臓六腑を整える場所がそろっております
写真では分かりにくいですが親指の先『脾』、小指の先『腎』、母指丘をこちらの指先でコネコネしたり、特定の方向にこすります
『腎』と『脾』の強化ができます
その3:小児推拿 揉摩「中カン(月完)」、「丹田」
術者の手指二本ないし三本をそろえて指の腹で、円を描くように、軽く揉むようにお腹を擦ります
「中カン」は臍の上。いわゆるミゾオチです
「丹田」は臍の下です。わかりやすいですね
便秘が有る時には臍の両サイド「天枢」も加えます
「中カン」は胃を動かす為に
「丹田」は『腎』を強くします
回数は100回くらい
その4:小児推拿 直推「脊柱(督脈)」「膀胱経」
術者の人差し指と中指二本そろえて、その指の腹で施術します
名前のとおり「脊柱」背中のど真ん中を肩甲骨の間くらいから尻の方へ
一方向にさすります
「脊柱」は督脈という経絡そのもので、刺激は脳につながるとされます
脳への刺激と血流改善の為
同じように脊椎の両サイドにあるツボと言うか線ですが「膀胱経」をさすります
「膀胱経」も脳につながりますが、膀胱経上には五臓六腑のツボすべてそろっているので内臓全体の強化目的です
これもそれぞれ100回くらい
その5:小児推拿 按揉「脾兪」「腎兪」
親指の腹を使って、先ほどの「膀胱経」上に在る『脾』と『腎』のツボを重点的に揉みます
もちろん『脾』『腎』の強化の為
左右同時で50回ずつくらい
写真は仕上げの時なのでちょっと外めです
その6:小児推拿 捏脊
捏(こねる)と日本語で読みますね
先ほどの「膀胱経」に沿って、皮をつまんで引っ張りながら、同時にそれをたぐるようにしながら動かします
お尻からはじめて腰、背中、肩甲骨の間まで
途中「脾兪」や「腎兪」等の重要なツボのところでは少し強めにつまみ上げます
これは3回
以上で一通りの施術です
時間は15分くらいです
ちなみち、中国の病院では当時小児推拿の時は天花粉を使ってました
今はベビーオイルを使っています
よく伸びて飛び散らずに便利です
◎最後に
以上、PVL・小児の脳室周囲白質軟化症について、それに対する私が行っている鍼灸治療と推拿療法を紹介しました
Sちゃんは現在、月に一度の病院の検診では何も発育発達の遅れや障害は認められておりません
成長曲線ままのいたって健康な状態だそうです
よく食べて、よく動いて、受診当初の胃腸が悪いサインや症状は解消しています
当初私が登場すると大泣きする事がありましたが、最近ではようやく何かしら良くしてくれる人と認識してくれてるのか、泣かなくなって、おまけに笑ってくれます。嬉しいですね
今後はまだどうなるのかわかりませんが、引き続き慎重に誠実に施術させていただこうと思います
Sちゃんのお母さんは比較的高齢出産であり、Sちゃんは数年間の不妊治療の末にようやく授かった子です
苦労してやってきたその娘さんがPVLと分かり、かと言って医師の方では診断は下せるけど成す術が無い状態
医師ももどかしいでしょうが、お母さんは難産だった自分のせいだとご自身を責めたでしょうし、それに寄り添うお父さんも成す術なくてお二人とも大変苦しまれた事と察します。初診の時のお二人の疲れた感じや不安な表情が忘れられません
私の施術が少しでも助けになってくれているのならば幸いです
ご両親にとってもSちゃん自身にとっても
そして冒頭にも書いたように、このブログがPVLの子を持つ親御さんの目にとまり、何か希望の一片にでもなればと思います
(あとはHPのアクセス数が上がって新患さんがきますように、、、笑)